クリエイティブ地域活性

アート思考・デザイン思考で切り拓く地域プロジェクトの資金調達戦略:無形の価値を伝え、共感を呼ぶ方法

Tags: アート思考, デザイン思考, 地域活性, 資金調達, 地域プロジェクト

地域におけるプロジェクトを推進する上で、資金の確保は常に重要な課題の一つです。特に、アート思考やデザイン思考を取り入れたプロジェクトは、その価値が短期的な数値成果として現れにくい場合や、従来の枠組みでは評価しづらい「無形の価値」を多く含むことがあります。こうした特性を持つ地域プロジェクトにおいて、どのように資金を調達し、持続可能な活動へと繋げていくことができるのでしょうか。

この記事では、アート思考とデザイン思考が、地域プロジェクトの資金調達においてどのように有効なツールとなりうるのかを解説し、実践的なアプローチについて考察します。

地域プロジェクト資金調達の課題とアート・デザイン思考の可能性

多くの地域プロジェクト、特に創造性やコミュニティ形成に焦点を当てた活動は、単なる経済的リターンだけでなく、文化的な豊かさ、住民のwell-being向上、地域への愛着醸成といった、測定が難しい無形の価値を生み出します。しかし、助成金、補助金、企業のCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)活動資金、あるいはクラウドファンディングといった様々な資金調達チャネルは、しばしば明確な成果指標や論理的な説明を求めます。ここに、無形の価値を伝えることの難しさがあります。

アート思考は、既存の枠組みや常識にとらわれず、本質的な問いを立て、新しい価値や視点を見出すプロセスです。デザイン思考は、人間中心のアプローチで課題を解決するための思考法であり、共感、定義、創造、プロトタイプ、テストの五つのステップから構成されます。これらの思考法は、単に創造的なプロジェクトを生み出すだけでなく、そのプロジェクトが持つ深い意味や潜在的な価値を掘り下げ、それを他者に分かりやすく伝えるための強力な手段となり得ます。

すなわち、アート思考でプロジェクトの「なぜやるのか」「どのような世界を創りたいのか」といった根源的な問いを探求し、そのユニークな価値(無形の価値を含む)を明確にします。そして、デザイン思考を用いて、その価値を資金提供者や関係者といった「ユーザー」にとって響く形でデザインし、共感を呼ぶコミュニケーション戦略を構築することが可能になります。

アート・デザイン思考を活用した資金調達の実践ステップ

それでは、具体的にどのようにアート思考・デザイン思考を資金調達に活かすことができるのでしょうか。以下に実践的なステップをご紹介します。

  1. プロジェクトの「核」と「無形の価値」を深く探求する(アート思考) 資金調達の第一歩は、プロジェクトそのものを深く理解し、その独自の価値を明確にすることです。アート思考のアプローチを用い、「このプロジェクトは、なぜ今、この地域に必要なのか?」「何を目指しているのか?」「一般的な活動とどう違うのか?」といった問いを繰り返し問いかけます。このプロセスを通じて、プロジェクトの論理的な目的だけでなく、そこに関わる人々の情熱、地域への思い、そして生み出される文化的な豊かさや人々の心の変化といった「無形の価値」を言語化し、掘り下げます。これは、単なる活動内容の説明ではなく、プロジェクトの魂とも言える部分を見出す作業です。

  2. ターゲットとなる「支援者」を理解し、共感ポイントを探る(デザイン思考:共感) 次に、誰から資金を得たいのか、具体的なターゲット(行政の特定の部署、特定の分野に関心を持つ企業、地域の財団、一般市民など)を明確にします。そして、デザイン思考の「共感」のステップに進みます。これらのターゲットは、どのような課題を抱えているのか、何に関心があるのか、どのような基準で支援対象を選んでいるのかを徹底的にリサーチし、理解に努めます。彼らの視点に立つことで、プロジェクトが彼らにとってどのようなメリット(例:地域課題の解決貢献、企業イメージ向上、社員のエンゲージメント向上、投資による社会変化の実感など)をもたらすのかが見えてきます。

  3. 「無形の価値」を伝えるためのストーリーと表現をデザインする(デザイン思考:定義・創造・プロトタイプ) ステップ1で見出したプロジェクトの核と無形の価値、そしてステップ2で理解した支援者の関心事を結びつけ、「支援者が共感し、応援したくなるストーリー」を定義します。このストーリーを伝えるために、どのような表現方法が最適かを創造的に検討します。単に資料を作成するだけでなく、プロジェクトの雰囲気を伝える短い動画、共感を生む写真、体験型のプレゼンテーション、あるいはプロジェクトの成果を模した「プロトタイプ」など、多様な手段を検討します。プロトタイピングの考え方は、資金調達の提案においても有効です。例えば、提案資料やプレゼン手法を「プロトタイプ」とみなし、少数の人に試してもらい、フィードバックを得ながら、より伝わる表現へと磨き上げていきます。

  4. 資金調達チャネルに合わせたアプローチを調整する クラウドファンディングではプロジェクトの情熱や共感、コミュニティの力を強調する必要があるかもしれません。助成金申請では、公募要項が求める論理的な説明や成果指標との関連性を、アート・デザイン思考で見出した独自の価値と結びつける工夫が求められます。企業のCSR担当者には、自社の活動方針との親和性や、社員の巻き込み可能性といった視点からのデザインが有効かもしれません。チャネルごとに最適な「伝え方」をデザイン思考で検討し、アプローチを調整します。

  5. 提案とフィードバックからの学びを活かす(デザイン思考:テスト) 資金調達の提案は一度で成功するとは限りません。結果がどうであれ、なぜうまくいったのか、あるいはうまくいかなかったのかを分析し、そこから学びを得ることが重要です。どのような説明が相手に響いたか、どのような表現が関心を引きつけたか、逆にどのような点が不明確だったか、疑問を持たれたか。これは、デザイン思考の「テスト」の段階に相当します。得られたフィードバックを活かし、プロジェクトの伝え方や、そもそもプロジェクトのどこを強調すべきかといった点を再検討し、次なる資金調達の機会や関係構築に活かします。

成功事例と実践上の留意点

アート思考やデザイン思考が資金調達に有効に働いた事例として、地域住民が主体となり、その地域ならではの文化や歴史をアートプロジェクトとして昇華させ、そのプロセス自体に価値を見出したことで、クラウドファンディングで目標額を大幅に超過達成したケースなどが挙げられます。この成功は、単に「〜なモノを創ります」という説明に留まらず、「なぜこの地域で、私たちが、これをやるのか」という強いメッセージと、プロジェクトに参加すること、支援することによる感情的な価値(共感、貢献実感)を巧みにデザインし、伝えた結果と言えるでしょう。

しかし、実践においては留意点もあります。定量的な成果指標を求められる場面では、アート思考で見出した無形の価値を、具体的な活動内容やプロセスと結びつけ、可能な範囲で「質的な変化」として説明する工夫が必要です。例えば、「参加者の地域への愛着が深まった」という質的な変化を、「参加者のアンケートで地域活動への関心度合いが上昇した割合」や「プロジェクト後の地域イベントへの参加者数増加」といった、ある程度測定可能な指標と合わせて示すことで、説得力を持たせることが考えられます。

また、行政や企業の意思決定プロセスは、アート思考的な自由な発想だけでは動かせない場合もあります。デザイン思考で相手の立場や意思決定の論理を深く理解し、その枠組みの中で、いかにプロジェクトのユニークさや価値を効果的に位置づけるかが鍵となります。

まとめ

地域プロジェクトにおける資金調達は容易ではありませんが、アート思考とデザイン思考は、この課題に対する新しい、そして効果的なアプローチを提供してくれます。アート思考でプロジェクトの本質的な価値、特に無形の価値を深く掘り下げ、デザイン思考でその価値をターゲットとなる支援者に響く形でデザインし、伝えること。このプロセスを通じて、単なる資金提供の関係を超えた、共感と信頼に基づく強いパートナーシップを築く可能性が生まれます。

資金調達は、プロジェクトの活動を継続させるための手段であると同時に、プロジェクトの価値を社会に問いかけ、共感を広げる機会でもあります。アート思考とデザイン思考を味方につけ、地域プロジェクトの可能性をさらに広げていくための一歩を踏み出していただければ幸いです。